ライル　お前は今、何をして、何を思っているんだろうな。





























俺はいつでも笑っている筈だった。
周りに居た人間の誰もがその変化には気づかなかったし・・・
たった一人を除いては



スナイパーの仕事を始めて暫くした頃、偶然というイタズラにより　　再会した　　俺ともう一人の俺



正確には双子の片割れ。

ほぼ同じ顔、身長、よく似た響きで発せられる声。髪型くらい変えればいいのに、久しぶりにあった俺達は昔のまま

いや、少し・・・　



「よお、久しぶりだな　ライル　」

「・・・ニール・・・」
　　　　　　　　　　　　いつもの笑顔で笑いかける　　　帰ってきたのは驚きの表情。

　　　　　　　　　　　　そりゃそうだよな。　　　約束もしていない　　　いきなりだ。

「元気にしてたか？」

「ああ、元気だよ　ニールこそ」

　　　　　　　　　　　　目を細め愛しい者に投げかける視線に　こちらも表情がやわらぐ。




こいつは優しいんだ　俺なんかよりずっと・・・・・

子供の頃はそんなライルを護っていかなきゃなんて、考えていた。























でもそれは間違っていたんだよな























「なんだ買い物か？」
　　　　　　　　　　　　　手に持った紙袋をみやる。

「夕食用の食料だよ」

「そっか、お前が作るのか？」

「もちろん」

「彼女とかいないのかよ、いい年して」

「そっちこそ」
　　　　　　　　　　　　　確かに俺もライルも年は変わらない。


「何言ってんだろうな、あれこれ質問責めで・・・悪い」

「本当に、どこの聞きたがりのおばさんだよ」

　　　　　　　　　　　　　呆れましたってポーズをとっておどける。









いつもこうやって許してくれる。


















動が俺なら、ライルは静。


強がって護ってやるんだと、それを支えにしてすがっていた。多分わかっていたんだろう


庇うためにと抱きしめた腕が震えていたのは俺の方で　その腕や背中を優しくさすってくれるのは　いつもライルの方だった。



























本当に強いのはこいつの方だ









気づいたのはいつからだったか

































「一人で大丈夫か？」

「大丈夫だよ」
　　　　　　　　　　　　　こんな事が　　言いたかったのだろうか

「ニール？」

　　　　　　　　　　　　　こんな事で　　伝わるのだろうか

「え？」

　　　　　　　　　　　　　胸の中がざわつく　何故・・・

「悪い、ボーっとしてた」

　　　　　　　　　　　　　苦笑しながら返した答えは的を得ていない









眉尻を下げた目の前の俺が心配そうに










「ニール　辛いなら　やめてしまっていいんだよ
無理してまでしている事は、自分の心に背いているから、辛いんだ」


（お前は・・・・・）


「自分を殺してしまわないで、自分の思いから目を逸らさないで」


（本当に・・・・）


「君は僕のためでも　誰のためでもなく　君として生きるんだ。自分の足で歩きたかったから　出て行ったんだろう？」


（そこまで・・・知っていたのか）















二人でいるといつも甘えてしまっていた。

隣にいる体温が当たり前に思えて頼りきってしまいそうだった。でもその反面、失くしてしまうのではという

えも知れぬ恐怖感にさいなまれて

怖かった　　　いつも　　　いつも　　　毎日　　　朝が来て　　　夜が去って　　　目を覚ます度

どちらが現実だったら良かったのか判らない様な　夢をみたり　　　起きているのか　生きているのか　ふわふわとした



曖昧な錯覚におちいったり



そんな俺を支えてくれたのはライルだった











近すぎた　　　優しすぎた　　　だから

















このままでは　一人で立つことさえできなくなってしまいそうで






























だから一人で　　　歩こう　　　と決めた。

































怖かったんだ　　　ごめん。






























「本当　かなわないな」　　　ホントに・・・


「そりゃ　双子だからな」


　　　　　　　　　　　　　まっすぐに伸ばしてくる手

　　　　　　　　　　　　　耳の後ろ側をすべり、首の後ろに回され　導かれるように体を預ける


「大丈夫だ　いつでも見てるよ」

「うん」

「ちゃんと見てる」

「うん」

「僕は君だ　だから幸せになることを諦めないで」

「俺は・・・・・」


　　　　　　　　　　　　　殺人者だ　という言葉を音にする事は出来なくて



「どんな君でも良いんだよ　ニール」




（頼むやめてくれ　　　　これ以上聞かせないでくれ）











　　　　　　　　　　　　　必死に作り上げてきたものが崩れそうだった











「ニール」















はっきりと胸に響く


俺を存在させる言葉


















「愛してるよ」

















だめだ　　　ずっとひた隠しにしてきたものが　せきをきってあふれてくる




「ニール　君は僕だ」




その思いに触れていいんだろうか？　こんな俺が優しさになんか包まれていいんだろうか？

ヒトゴロシが

お願いだから　そんなに微笑まないでくれ




何よりも強い君




その優しさは凶器の様だ　と思った

どす黒くこり固まってしまった心の鎧を一瞬で打ち砕く

そうしてあふれてきた涙という　俺の悲しみや苦しみを受け止め　拭ってくれる指の温かさに清められていく

包みこまれる体温やライルの鼓動　呼吸　全てに癒される身体。

神ではないかとすら思えてしまう、その抱擁にどんな儀式よりも満たされてしまう心。




「ライル」




精一杯絞り出した声


力をこめて抱き締め返す








弱い　　　弱い　　　俺をいつも支えてくれてありがとう


優しさという何にも負けない強さ









護られていた　　　　いつも　　　　いつも
　
　ｄｅｅｐ　ｆｏｒｅｓｔ

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